生物の進化と水の関係から考える水共生

~Newsletter vol. 3 水共生学エッセイより~

富永 篤(琉球大学 教育学部)

 大学で学校教員養成のための生物学を担当することになり、教える側になってはじめて気がつき、自分自身の理解が深まる知見というのはよくある。中学校の理科では、動植物の分類やその背景にある進化プロセスについて学ぶのだが、このことをよく理解しようと考えるようになって、多くの生物の進化が水域を中心に始まり、全体的な方向性として 「水環境からの脱却」へと進んできたことを、今更ながらに認識することができた。

 脊椎動物の進化という大きなスケールで見ると、魚類や両生類の多くは、体外受精で、殻に覆われていない卵を産む点で、その繁殖はほぼ完全に水に依存している。一方で羊膜類(羊膜を持つ動物)の一つである爬虫類では、体内受精と羊膜に包まれた羊水の中で胚が発生するという特性を獲得したことで、水依存の生活から脱却できている。爬虫類から進化した鳥類、哺乳類も同様である。実は、この「水環境からの脱却」という進化の方向性は、私の主要な研究対象である両生類の中でもある程度見られる。尻尾を持つ両生類である有尾類(サンショウウオやイモリの仲間)の中で、比較的原始的な特徴を多くもつ日本のサンショウウオ類(オオサンショウウオ科やサンショウウオ科)では体外受精で、産卵も水の中で行われる。これに対し、派生的な特徴をもつイモリ類では体内受精になり、特に沖縄のイボイモリなど一部の種では、精子の受け渡しも含めて陸上で行い、さらにイボイモリは陸上に産卵する。しかし、残念ながらイボイモリは、完全には水環境への依存から脱却できていない。雨降りの日などに陸上で孵化したえらを持つ幼生(カエルでいうオタマジャクシ)は雨水に流されたり、自分で飛び跳ねたりしながら水環境である水たまりや池へ到達しなければならない。その点では、北アメリカを中心に分布するアメリカサンショウウオ科の種の中に、体内受精で、陸上に産卵し、水環境の必要な幼生期を卵の中で過ごし、親と同じ形の変態した幼体として孵化するというものが知られている。ほかにも、卵から子ガエルが生まれる特性(直達発生)が進化している無尾類(カエル類)の一部も「水環境からの脱却」の方向で進化し、その障壁を乗り越えて、さらに多様化してきたようだ。
 多くの種が「水環境からの脱却」の方向性を持つ一方で、哺乳類や爬虫類の中には、陸上に進出したのちに再び海や陸水を生息環境とすることで繫栄してきた鯨類、ウミヘビ類などがいることも興味深い。このような生物の進化と水の関係を概観すると、生物と水というものがいかに密接に関係してきたのかあらためて実感できる。

 現在、両生類はほぼすべての種が陸水環境に依存した生活史をもつ。私が研究を始めて20年余りの間にも、山間部での放棄水田の増加、平野部の田んぼの圃場整備による乾田化、宅地開発・道路整備による陸水環境の破壊が進んで、両生類の生息環境の悪化が続いている。さらに農薬による汚染、水辺の外来生物の増加も気がかりだ。人の生活と、陸水環境や野生生物の共存を育んできた里山の自然を、今後もそのままの形で維持することは困難かもしれない。しかし、先人たちの知恵も頼りに、人と野生生物が共存可能な新しい水共生の社会を模索し、その実現にむけて貢献していきたい。

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