令和6年度 公募研究班(研究課題・代表者紹介)

岡崎 淳史 [千葉大学・環境リモートセンシング研究センター・准教授]

24H00920 超高時間分解能気象場復元:歴史気候学から歴史気象学へ

概要

 近年、風水害が頻発・激甚化しており、温暖化予測を高度化し効果的に適応策を進める必要がある。予測の試金石となるのが過去の極端現象の再現性である。本研究は、日本域を対象に17~19世紀における降水量を日スケールというこれまでにない時間解像度で復元することを目指す。本研究では、データ同化という最先端の古気候復元手法を用いて、日記に記された「晴れ」や「曇り」といった天気区分情報と気象モデルシミュレーションを融合することで復元を行う。極端現象記録の延伸により、低頻度現象の統計的理解及び温暖化予測評価の促進が期待できる。

熊澤 輝一 [大阪経済大学・国際共創学部・教授]

24H00934 沖縄諸島における市民による公共水場のデジタルアーカイブの構築プロセスと効果検証

概要

 本研究では、水共生社会を実現する上での拠点として、公共の利用に供していた水環境とそれが形成した場所に着目する。特に、湧水、井戸、生活利用される河川・水路を対象とし、これらを、「公共水場」と呼ぶ。
 その上で本研究は、沖縄諸島における公共水場のデジタルアーカイブ(以下、水場アーカイブ)を市民が構築するプロセスを解明した上で、その過程で生じた効果を検証することを目的とする。第一に、市民によるデジタルアーカイブ活動事例を調査し、企画、構築、公開、管理の各段階の課題を抽出する。第二に、現地調査と目録制作を通じて水場アーカイブの特徴を反映したメタデータ設計の要件を整理する。第三に、公的なアーカイブ機関、技術・知識面での連携可能性がある地元自治体等の組織へのヒアリング調査を実施し、連携が有効な点と連携方法を明らかにする。第四に、アーカイブ活動への参画を通じて水場アーカイブの構築、公開の過程を解明する。最後に、水場アーカイブ利用のワークショップを実施して効果を検証し、活動持続の課題を整理する。
 以上から、市民保有の水環境のアーカイブ資料を活動組織に適合した形で継承する方法を提示する。

笹井 義一 [国立研究開発法人海洋研究開発機構・地球環境部門(地球表層システム研究センター)・主任研究員]

24H00935 古記録・日記による近世時代の漁獲と気候・人との関わり

概要

 近世の古記録・日記には、その時代の日々の出来事が記述されている。記述される事柄には、日々の生活から、食生活、経済活動、時候、自然災害などと多岐に渡る。例えば、天気などの情報は、過去の気候を復元する古気候研究の分野にとって貴重であり、長期の気候研究に活用されている。同様に、過去の漁獲量を客観的に推定することができれば、国内における漁獲量の長期的な変動の情報を充実させるだけでなく、地球規模の気候変動と比較することで、漁獲量に対する気候との関係を理解することに繋がる。本研究では、各地に残る近世の古記録・日記を収集し、漁獲量や気候、人間活動に関係する記録を文章から読み解き、データベースを作成する。

伊藤 千尋 [九州大学・人文科学研究院・准教授]

24H00929 南部アフリカ・カリバ湖におけるローカルな水資源利用と在来知の動態

概要

 アフリカ諸国では、気候変動や急激な社会・経済環境の変化に起因した水リスクが増しており、地域の実態に即した持続可能な水循環システムの実現が喫緊の課題となっている。本研究が対象とする南部アフリカ・カリバ湖では、気候変動による水量や漁獲量の低下など、自然環境の不確実性が高まっている。同時に、経済自由化やグローバル化の進展により、観光業や養殖業など、沿岸の土地を利用した開発が進展している。本研究の目的は、カリバ湖における湖岸住民の水資源利用と在来知を、自然環境の変化や開発との関係から明らかにすることである。これを通じて、ローカルな視点からカリバ湖の水環境に関する社会的課題を解明するとともに、多様なアクターに求められる行動変容のあり方について検討する。

谷口 智之 [九州大学・農学研究院・助教]

24H00928 農業農村地域における農業外事業者による水環境保全活動の実態とその継続に向けた方策

概要

 国内の水田地域の水環境は、営農者による日常の営農作業をとおして維持・管理されてきた。しかし、近年は水田の収益性が低いため、低平地域では畑地化、中山間地域では耕作放棄地の拡大が進み、農業農村地域では水環境の変化や水辺の喪失が起きている。農業の収益性と効率性が重視されるなか、この傾向は今後さらに拡大すると予想される。一方で、農業以外の事業者が農業農村地域の水環境の保全に取り組んでいる事例がある。これは、農業の効率化によって生じる人間圏へのシフトを、他の事業者が地球圏と生物圏に引き戻そうとする取り組みと言える。本研究では、そのような取り組みを行っている2事業者(低平地域で水生生物を養殖する業者、中山間地域で環境保全型水稲作に取り組んでいる日本酒業者)を対象に、①各事業者の取り組みの詳細と人的・金銭的な負担、②市民を巻き込んだ活動の状況と参加者の評価、③今後の活動継続に向けた課題を明らかにする。

凪 幸世 [東京女子医科大学・医学部・助教]

24H00933 アフリカ辺境地域における水系感染症の防除に向けた住民主導モデルの構築

概要

 世界では水と衛生環境の整備が不十分な国や地域を中心として水系感染症が蔓延している。このうち住血吸虫症は、汚染された水との接触によって感染する寄生虫感染症であり、未だ2億2900万人が罹患している。広大な流行地域のなかでアフリカは最大の住血吸虫症の蔓延地域であり、南アフリカおよびサハラ以南の農業、灌漑地域を含む水環境が感染リスクとなっている。住血吸虫の感染伝搬は、主にヒトから排出された虫卵が川や湖などの水環境下で孵化したのち、淡水性巻貝の中で成長し、水中に遊出したセルカリア幼虫が皮膚から侵入することで生じる。感染防除にはヒトと淡水性巻貝の間で維持されるライフサイクルを断絶することが不可欠である。
 本研究では住血吸虫症が蔓延するアフリカ辺境地域において、1)感染源となる住血吸虫感染者の排泄物中に含まれる虫卵からの水環境の汚染防止や、2)セルカリア幼虫に汚染された水への接触防止など感染と密接に関わるヒトの行動変容を促す施策をベースとした流行地住民主導によるボトムアップ型対策モデルの構築を目指す。これらの住民主体の地域活動は、住民間の協力体制や社会的な情報網としてのソーシャルネットワークの形成など、感染予防行動に導く大きな原動力となる。ひいては、水の利用リスクを解消し、将来の世代が安全な水資源を享受するために地域の共有財産を生みだす、力強く、しなやかな水共生社会を推進する源流となることが期待できる。

武井 弘一 [金沢大学・人間社会研究域・教授]

24H00930 水資源の活用と水災害を巡る歴史実証分析

概要

 近世日本に注目しつつ、「水資源の活用と水災害を巡る歴史実証分析」という観点から、水利用・水環境に纏わる諸問題と、その対策に関する実証的な研究を進める。ヒトが自然に対して強くもあり、弱くもあった近世日本だからこそ、水資源や水災害のリアルな実態も見えてくる。とりわけ重視するのは、気候変動という視点である。これを視野にいれつつ、日本列島の各地で、どのような水資源、水災害の問題が生じたのかの個別的な実証研究を進めていく。その具体的な内容は、次のとおりである。

  1. 北陸の加賀藩を事例にしながら、農村水害に対する村社会の応答を明らかにする。
  2. 江戸を事例にしながら、都市複合災害に対する政府と都市社会の応答を解明する。
  3. 濃尾平野を事例にしながら、地下水コモンズに対する河川流域社会の応答をとらえる。

 これらのケーススタディをとおして、近世日本の水資源と水災害のリアルな実態が解き明かす。その成果を通じて、水共生学の創生をめざすための歴史に関する情報を提供し、問題提起をすることが、最大のねらいである。

大野 智彦 [金沢大学・地域創造学系・教授]

24H00924 長期化・複雑化した水をめぐる対立の政策過程分析

概要

 水共生社会の実現に向けて、水をめぐる対立のメカニズムを理解することが重要である。これまで、水に関する対立は数多く研究されてきたが、多くは個別事例の質的記述であり、流域レベルでの対立のメカニズムに関する一般的な知見は十分ではない。そこで本研究では、流域レベルでダム建設に関する複雑かつ長期にわたる利害対立を経験する2つの事例(肱川、球磨川)を対象としつつ、各種データベースからそれぞれの事例に関して網羅的に収集した文書群を対象とした計量テキスト分析やネットワーク分析によって、数十年にわたるガバナンスの動態を定量的に把握する。さらに、国レベルの政策文章に対しても同じ分析を実施し、流域レベルと国レベルのガバナンスの多層的な相互作用を解明する。加えて、流域ガバナンスにおける利害対立を把握するための分析フレームワークや手法開発にも取り組み、研究成果の国際的な発信を重視することで水共生学の構築への貢献を目指す。

兵藤 不二夫 [岡山大学・環境生命自然科学学域・教授]

24H00926 昆虫の同位体とDNA情報から探る流域環境

概要

 近年の人間活動の増大によって気候変動や窒素負荷、生物多様性の喪失といった地球環境問題が生じています。現在、科学技術の発達によって、衛星データなどから全球レベルでの環境状況の把握が可能となっていますが、人間が生活する流域スケールでの環境は、時空間的変動が大きいため、その把握が困難です。本研究では最も生物多様性が高く陸上でバイオマスが大きい動物である昆虫に着目し、その同位体とDNA情報から流域スケールの元素循環と生物多様性に関する情報を効率的に取得する手法を提示することを目指します。

北野 忠 [東海大学・教養学部・教授]

24H00932 南西諸島における絶滅危惧水生昆虫の野生復帰とその環境条件に関する研究

概要

 本研究は、現在減少傾向が著しい琉球列島の水生昆虫を保全するため、生息域外での繁殖のための知見の収集と、室内で繁殖させた水生昆虫を野生復帰により野外で定着させる好適な条件を明らかにするものである。本研究では、種の保存法によって国内希少野生動植物種に指定されているフチトリゲンゴロウ・タイワンタイコウチ・リュウキュウヒメミズスマシを対象とする。前2種においては、繁殖技術は確立しており、すでに野生復帰のための放虫を実施してきているが、今後は野生復帰場所・時期・個体数・放虫時のステージ(卵・幼虫・成虫)を検討しながら定着に好適な条件を明らかにするともに、定着した個体群動態を追跡し、各種の生態を野生下で明らかにする。リュウキュウヒメミズスマシにおいては継代飼育が確立できていないことから、繁殖技術を改良するとともに飼育下での生物学的知見を収集する。水生昆虫の野生復帰に関する過去の報告は極めて乏しく、本研究はこれら3種の直接的な保全のみならず、全国的に減少している水生昆虫の保全においても極めて重要な知見となりうるものである。さらにこれらの研究は社会実装として極めて重要で、政策提言にも直結できるものである。

中村 晋一郎 [名古屋大学・工学研究科・准教授]

24H00925「河川消失」をめぐる人間-水循環システム相互作用メカニズムの国際比較

概要

 本研究は、「河川消失 (Lost Rivers)」が生じる人間と水循環システムの相互作用メカニズムの都市間比較を行うことで、そのメカニズムの共通性あるいは差異性を明らかにするものである。 河川消失とは、水質劣化や洪水の激化、インフラ整備などを理由に、河川が暗渠化や埋め立てによって消失する現象のことであり、パリ、ロンドン、バンコク、ソウル、そして東京など、世界の大都市で生じた共通的かつ象徴的な現象である。東京での河川消失は、大都市の成長過程における複雑な人間と水循環システムとの相互作用メカニズムを伴うことが分かっているものの、そのメカニズムが他の大都市と比較してどのような共通性あるいは差異性があるのか明らかとなっていない。そこで本研究では、河川消失が生じたパリ、ロンドン、バンコク、そして東京を対象に、A)「河川消失」現象メカニズムの整理とモデル化B)「河川消失」現象メカニズムの都市間比較を行うことで、それらの大都市で河川消失が生じる人間と水循環システムとの相互作用メカニズムの共通性あるいは差異性を明らかにする。