公募研究班(研究課題・代表者紹介)

岡崎 淳史 [千葉大学・環境リモートセンシング研究センター・准教授]

22H05228 日本における歴史社会水文学の展開に向けた高解像気候復元

概要

 地球温暖化と水利用の変化により様々な水に関する問題が顕在化し、今後さらなる深刻化が予測される現代において、水と社会の相互関係を理解する必要がある。本研究では、日本における水害や渇水と社会の相互関係を歴史的に紐解くことを可能にするデータセットを開発することを目的に、過去400年に渡る水文気候情報を、既往研究をはるかに凌駕する高い解像度で復元し、水害・渇水リスクの変遷を明らかにする。本研究は、データ同化という最先端の古気候復元手法を用いて、気候モデルシミュレーションと歴史データ・気候プロキシを融合することで上記目的を達成する。

小槻 峻司 [千葉大学・国際高等研究基幹・教授] サイト1 サイト2

22H05230 数値計算と地域研究で読み解く水災害リスク変動が地域社会に与えてきた影響

概要

 本研究課題では「水災害」に着目し、長期変動する水災害リスクと社会の関係を解き明かすため、(1)過去180年間の洪水・旱魃を対象とした日本の水災害リスク変動推計 (水災害データ創出)、(2)水災害リスク変動が社会に与えた影響理解 (地域研究)を推進する。(1)では、20世紀再解析データを入力に180年間の陸域水循環モデル・数値計算を実施する。数値計算の結果を「洪水・渇水リスク指数」へ翻訳し、その変動を新たな地球圏データとして領域に提供する。(2)では吉野川・筑後川を対象に、激甚水災害との関連が示唆される高地蔵や神社奉納物などユニークな伝承に注目する。時空間上の「疎」な災害伝承情報を数値計算による災害リスク変動から裏付けることで拡張し、人間圏・地域社会の理解に発展させる。本研究を通して、社会学分野に数値計算・工学的検証の風を吹き込み、地球圏の知見を人間圏に活かして統合する「水共生学」の創出に貢献する。

若松 美保子 [東京海洋大学・学術研究院・准教授]

22H05232 水資源の包括的な経済価値の評価

概要

 水資源の包括的な価値は市場で適切に反映されておらず、その管理には適切なガバナンスを要する。本研究は、水資源の包括的な価値がいくらかを明らかにすることで、水資源の持続可能なガバナンスに貢献する。コンジョイント分析を用いて定量化し、環境評価において近年関心が高まっている論点についても検討を行う。水資源の価値は、生活・工業用水としての直接的な利用価値に加えて、水資源を間接的に利用するような漁業や観光業への間接的な利用価値、豊かな自然環境や生態系が残っていること等への非利用価値等の多様な価値を包括的にとらえる。

小谷 亜由美 [名古屋大学・生命農学研究科・助教]

22H05233 寒冷森林地域のステップ型牧畜を支える水・物質循環

概要

 環境変動下にある生態系の水・物質循環と人間活動の相互作用の理解を目的として、東シベリアの森林生態系の水域と草地を利用する牧畜業を、生態系の水・物質循環の要素として再評価し、水の過不足にどのように対応してきたか。人間活動に注目する人文社会科学と環境変動に注目する地球科学で得られた知見から、地域環境を形成する水・物質循環との関わりを通して、地域の生業を理解することを目指す。

中村 晋一郎 [名古屋大学・工学研究科・准教授]

22H05234 大都市における人間-水循環システム相互作用メカニズムと現象の解明

概要

 本研究は、日本の大都市で生じる人間社会と水循環システムの相互作用メカニズムとその変化を解明し、海外の社会水文現象と比較することで、日本の大都市で生じる社会水文現象の特徴を明らかにする。社会水文学は、人間活動と水循環システムの間で生じる相互作用メカニズムを解明することを目的として生まれた新たな学問であり、近年、欧米を中心に急速に研究が進展している。しかし、これまでの社会水文学に関する研究は主に西洋文化圏における現象を対象にすすめられてきたことから、その概念や体系がモンスーンアジアの気候条件と社会規範を有する日本へと適応可能かどうかについて検証が必要である。さらに、人間活動の集中と急激な社会変化を伴う大都市における研究は、その複雑性から社会水文学において未開拓な対象である。そこで本研究では、日本の大都市を対象に、A)人間-水循環システム相互作用の変化プロセスの仮説化、B) 人間-水循環システムの相互作用メカニズムのモデル化と検証、C) モデル化された人間-水循環システムの相互作用メカニズムと海外の社会水文現象との比較を行う。

兵藤 不二夫 [岡山大学・環境生命科学学域・准教授]

22H05235 昆虫の同位体と腸内DNAから読み解く環境情報

概要

 人間活動の増大は大気二酸化炭素濃度の増加、窒素循環の撹乱、そして生物多様性の減少といった地球環境問題を引き起こしています。現在、全球レベルでの地球環境の把握が進む一方で、ヒトが生活している地域レベルの環境の把握は、多地点で長時間にわたって調査をする必要があり簡単ではありません。本研究は様々な餌資源を利用し、大きな移動能力を持つ昆虫を対象とし、その同位体組成、そして腸内DNAメタバーコーディング分析から物質循環と生物多様性に関する環境情報を読み解くことを目指します。

宮園 誠二 [山口大学・大学院創成科学研究科・准教授(特命)]

22H05236 環境DNAと安定同位体を融合した流域圏生態系の健全性評価指標の開発

概要

 本研究では、在来魚類の宝庫である中国地方の一級河川を対象に環境DNA定量メタバーコーディング法と安定同位体分析を用いて魚類多様性と食物網・物質動態の空間パターンを把握する。続いて、対象河川の環境DNAと安定同位体を融合することで河川生態系の健全性評価指標(Index of River Ecosystem Integrity, IREI)を開発し、対象河川全域の生態系健全性の現状を把握する。最後に、IREIスコアと環境要因(水温、土地利用、河川ネットワークの連結性)との関係をモデル化し、将来的な気候変動や人間活動による河川生態系健全性への影響予測を行う。

富永 篤 [琉球大学・教育学部・教授]

22H05240 奄美・沖縄の陸水生態系における外来生物の影響評価と対策の検討

概要

 大陸島の奄美・沖縄地域には、洋上分散ができない陸水環境に強く依存する純淡水魚や両生類などの動物が多く生息し、それらの動物には島嶼間でも遺伝的な分化もみられ、地域固有性が極めて高いことが明らかになっている。もともと平坦な土地の少ない奄美・沖縄地域では陸水環境は少数の湿地と比較的小規模な河川などに限定されており、それらが水生生物の生息に重要な役割を担ってきた。一方で、水辺の外来種の増加により、奄美・沖縄の陸水生態系は消失、攪乱が進んでおり、多くの水生生物が減少している。本研究では、特に外来種の影響に注目し、外来種の駆除実験による影響評価、外来種の食性解析、外来種の行動圏把握、集団遺伝的解析により、その影響評価と拡散経路の推定を行う。

加賀谷 渉 [長崎大学・熱帯医学研究所・助教]

22H05241 シチズンサイエンスによるマラリアリスクの同定と住民の認知向上

概要

 世界三大感染症のひとつであるマラリアのリスクは、媒介昆虫であるハマダラカの産卵が水場で行われるため、水環境と密接にかかわる。産卵場所となる水系の同定、解消は、重要な対策であるが、ハマダラカの産卵場所は季節性の水たまりや大型動物の足跡など不安定であり、同定が難しい。また、マラリアの世界的な感染状況は、2000年頃からの新たな予防、診断、治療ツールの展開で大きく改善がみられてきたが、近年熱帯アフリカを中心に停滞が続き、感染ゼロへの最後の一押しを見いだせていない。そこにはツールの開発と分配で対処できない、住民のリスク認知とそれに基づくツールの受容に課題があると考える。本研究では、シチズンサイエンスを用いて、ハマダラカの繁殖地となりうる水源を網羅的に観察、同定、マラリア感染状況との比較検討からリスクエリアを明らかにする。同時に、住民を巻き込む活動を通じ、流行地住民のマラリアに対する認知を向上させ、マラリア撲滅に向けた新たな草の根の対策モデルを提示する。

北野 忠 [東海大学・教養学部・教授]

22H05242 南西諸島における絶滅危惧水生昆虫の域外保全個体からの野生復帰に関する研究

概要

 本研究は、現在減少傾向が著しい琉球列島の水生昆虫を保全するため、生息域外での繁殖のための知見の収集と、室内で繁殖させた水生昆虫を野生復帰により野外で定着させる好適な条件を明らかにするものである。本研究では、種の保存法によって国内希少野生動植物種に指定されているフチトリゲンゴロウ・タイワンタイコウチ・リュウキュウヒメミズスマシを対象とする。前2種においては、すでに繁殖技術は確立しており、今後は野生復帰場所・時期・個体数・放虫時のステージ(卵・幼虫・成虫)を検討しながら試験的に実施し、定着に好適な条件を明らかにする。リュウキュウヒメミズスマシにおいては繁殖技術が確立しておらず、飼育下での生物学的知見を収集する。水生昆虫の野生復帰に関する過去の報告は極めて乏しく、本研究はこれら3種の直接的な保全のみならず、全国的に減少している水生昆虫の保全においても極めて重要な知見となりうるものである。

笹井 義一 [国立研究開発法人海洋研究開発機構・地球環境部門(地球表層システム研究センター)・主任研究員]

22H05244 歴史的データから見える海洋生態と環境・人との関わり

概要

 古来より、人は海の生態系から恩恵を受け生活している。海洋生態系を将来に渡って利用し続けるには、近年報告されている気候変動や人間活動に伴う海洋生態系への影響を理解することは重要な課題である。これらの研究は、比較可能で整理されたデータがある1900年以降から現在に集中し、特にIPCC報告で指摘された世界の平均気温が上昇傾向になった20世紀後半以降を対象とした研究がほとんどである。一方、四方を海に囲まれている我が国において、海洋生態系と人・気候の関わりを記録した文献は過去数百年分あるが、地球環境学的視点に基づき海洋生態系の変動に対する気候や人間活動の影響を長期間研究した例は少ない。
 そこで、本研究では、日本沿岸における海洋生態系の変動に着目し、過去400年における海洋生態系と環境・人がどのように関わり、どう影響したかを明らかにすることを目的に、過去に記録された文献から環境と人間活動、海洋生態系に関係する情報を収集・整理する。また、水共生学で作成される降水量などの古気候再現データと比較することで、海洋生態系と環境・人の相互作用を解明し、収集・整理した情報を水共生学に提供する。

苅部 治紀 [神奈川県立生命の星・地球博物館・企画情報部・主任学芸員]

22H05245 絶滅危惧水生昆虫の現況と減少要因の解明、水環境の科学的知見に基づく環境再生

概要

 国内の水生昆虫は減少著しく、すでに多くの種が環境省レッドリストに掲載され、スジゲンゴロウのように国内絶滅したと考えられる種も複数知られている。減少はとどまるところを知らず、とくにこの15年ほどは、各種の急速な地域絶滅の進行が目立っている。
 昨年世界遺産に登録され注目も高まっている琉球列島において、止水性水生昆虫が近年急速に減少し危機的な状況にあることに注目し、2019年より環境研究総合推進費「危機的状況にある奄美・琉球の里地棲希少水生昆虫類に関する実効的な保全・生息地再生技術の開発」を実施してきた。現状調査も担当し、多くの分類群の激減を明らかにし、また、多くの種で島レベルの絶滅が生じている現状が浮き彫りになった。しかし、この研究は長引く新型コロナ感染の影響で、現地調査や、保全対策試験の断続的中断を余儀なくされ、多くの研究計画が遂行できないままに終了を迎えてしまった。
 琉球の水生昆虫類の危機的な状況は、昨夏一部地域が世界遺産には登録されたものの、全く改善されておらず、悪化のスピードはむしろ加速しているのが実情である。こうした現状を踏まえて、本研究では、コロナの影響でやり残した前プロジェクトの補完を意識しつつ、研究課題の「流域生態系の実証的解明」の一環として、これまでの成果を応用し、1)基礎的な生息情報の解明の完全化、2)減少要因としての気候変動に伴う干ばつやゲリラ豪雨、外来種侵入などの水環境変化の極端化による実態解明と水域生態系への影響把握を明らかにし、3)実効的な保全策として、水域の安定度や農薬汚染のスクリーニングを利用した、湿地創出による絶滅危惧種保全技術の開発試験等を実施する。