2023年8月9日~15日にかけて、貞國利夫先生(学芸員・釧路市立博物館)が中心となり、共同フィールドである釧路湿原にて鳥類調査を行いました。2022年の調査に続き、シマクイナを始めとする鳥類を確認しており、流域圏生態系の把握にむけた成果と言えます。
報告:シマクイナの生息調査について
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報告:シマクイナの生息調査について
鳥類の中で特にクイナの仲間は調べるのが難しく、生態に未解明な部分が多い種類です。調査が難しい理由は、ヨシやスゲが繁茂する湿原の中を歩行し、主な活動時間帯が夜間であるため、目視が困難なことです。また、湿原は一歩間違えれば底なし沼にはまってしまう場所であることも、調査が進んでいない理由の一つでしょう。
今回の調査対象種の一つであるシマクイナは、これまで日本では冬鳥(冬を越すために渡ってくる)と考えられていましたが、近年国内で繁殖していることが分かりました。調査が比較的しやすい鳥類において、冬鳥から繁殖鳥へ認識が置き換わることは、鳥類学において大きな発見の一つです。
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シマクイナは、極東ロシア・アジアのごく狭い範囲に生息し、日本では北海道から沖縄まで記録がありますが、繁殖地は北海道のみで、特に太平洋側や道東エリアに多数生息しており、その中でも釧路湿原は一大生息地です。
当館では、研究者と協力しながら釧路湿原を含めた道内の新規生息地を開拓し、生態解明に取り組んでいます。シマクイナは基礎生態が特に乏しいため、婚姻形態や育雛期間、雌雄の鳴き声、渡り経路などの調査が必要です。クイナ類の中でも生息地の選好性が狭く、生息数も少ないと考えられるため、IUCNレッドリストでは危急種(VU)、環境省では絶滅危惧ⅠB(EN)に指定されています。シマクイナを含めたクイナ類の存在を多くの方々へ伝えられるよう、今後も調査を進めてまいります。
(貞國利夫)