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本研究領域の目的
生命に欠かせない水をとりまく環境は、気候の変動や生態系の遷移、水に関わる社会状況の変化など、多様な内的/外的要因に起因する「ゆらぎ」を常態的に内包している。このゆらぎの幅が大きくなると、気象災害の頻発や水資源紛争の発生、生物多様性の喪失など、人間社会や生態系に多大なる影響が生じる。こうした水危機・水リスクを軽減させ、水とヒト、生物が持続的に共生する社会を実現することは、国際的にも重要な課題である。本領域では水をめぐる環境を地球圏―生物圏―人間圏の相互作用によって成立する「水循環システム」と捉え、三つの圏域のバランスの歴史的な変遷や現状の動態を解明し、地域の実態に即した水環境の社会的課題解決への道筋を探り、将来像を提案することを主要な目的とする新たな学問分野「水共生学」の創生を目指す。
本領域研究の内容
本研究領域は地球圏(A)、人間圏(B)、生物圏(C)を対象とする三つの研究項目のもとに四つの計画研究班を設置する。計画研究A01班は水共生学の創生に向け、水とその周辺環境情報の計測および解析を基に、地球圏―生物圏―人間圏の相互作用を水循環の観点から動態的に理解するための情報の創出と、この情報を他の計画研究で利活用するために必要となる情報翻訳アプローチの開拓を担当する。計画研究B02班は過去から現在にかけての水循環システムのゆらぎを、社会文化・歴史の観点から動態的に明らかにし、望ましい水共生社会を創生していく上で守るべき/変わるべき社会文化因子を抽出する。計画研究B03班は水資源が希少な地域や水インフラが貧弱な地域において、健康で豊かな暮らしを実現するためどのような水利用の方法が適しているのか、水環境の保全・改善のためにはどのような管理方策・制度が必要なのかについて、経済学の立場から実証的に分析し、持続可能な水資源ガバナンスのあり方を探る。計画研究C01班は、水を巡る自然環境と人間の社会や文化が共生する「流域圏」の基盤となる生態系の特性や生物多様性の実態を把握することで流域圏生態系システムの健全性を評価する。また、流域圏の創出・維持機構や変動要因、レジリエンスを解明することで流域圏社会—生態系における水循環システムのバランスを保全・修復し、持続的に利用する方策を探る。
期待される成果と意義
水共生学の創生により、主要なグローバル・リスクの一つである水危機・水リスクを軽減させ、水循環システムを持続可能なものとする具体的な方策を提示することが期待できる。また、異なる分野が協同して課題解決に取り組む水共生学の手法は、現在の世界が直面する他の課題やリスクの分析や解決につながるビジョンの作成に応用できる。そして、本研究領域の推進や公募研究を通じて、若手研究者の育成や研究者ネットワークの形成、新たな研究テーマの発見に繋がるであろう。