水共生学国際シンポジウムを開催しました

 2025年11月1日(土)、2日(日)の2日間、九州大学伊都キャンパス 稲盛ホールにて「水共生社会の実現に向けて ~水共生学からの提言~」と題する水共生学国際シンポジウムを開催しました。以下はその報告となります。


 本シンポジウムは2021年より開始した水共生学プロジェクトの最終的な成果報告と総括を兼ねたシンポジウムで、領域メンバーの多くが参加しただけでなく、2024年に国際シンポジウムを共催したタイから11名、同年3月と9月の巡検で訪れたカンボジアから1名、台湾から1名の計13名を招聘し、口頭発表とポスター発表および、2日目の総合討論に参加いただきました。

11月1日(土)

 領域代表 荒谷邦雄(九州大学)より開会挨拶をおこなった後、沖 大幹 氏(東京大学)から「人新世の水マネジメントのための水みんフラ 」と題する基調講演をいただきました。水を自然や生態系、インフラにとどまらず、文化や景観を形作るものとしてとらえる「水みんフラ」についての内容で、地球圏-生物圏-人間圏の関わりあいから水をとらえることをめざす水共生学の概念と共通する部分も多く、大変興味深い講演でした。気候変動や人口減少にともなうインフラ維持管理の課題と、傾向が異なる3つの社会モデルについて問題解決に必要なそれぞれの負担の推計について示されました。また、生物多様性を重視しない人にどうやって協働してもらうかという問いは、水共生学にとっても大きな課題と言えます。

 基調講演の後、各共同フィールドからの成果報告を行いました。

 セッション1:道東地域では、加藤 ゆき恵(釧路市立博物館)より釧路市立博物館に収蔵されている標本とその制作者についての調査報告、江頭 進(小樽商科大学)より湿原の環境保全と開発をめぐる行政のジレンマに関する経済学の観点からの報告、藤岡 悠一郎(九州大学)より釧路市立小学校で実施した環境教育に関する報告が行われました。

加藤先生の報告
江頭先生の報告
藤岡先生の報告

 セッション2:北部九州地域の報告では、渡部 哲史(九州大学)による概要説明の後、鬼倉 徳雄(九州大学)が豪雨災害後、生息地域ごとに生態系への影響に違いがあること、河川改修の方法によって種数の回復に差が生じることについて報告しました。五三 裕太(九州大学)は柳川の住民からの聞き取りをもとに、「川」と呼ばれる水域の認識が世代によって変化することを報告しました。渡部は武雄のため池を事例として水循環システムの動態的な変化について説明し、その変化が流域だけではとらえきれないことを報告しました。

鬼倉先生の報告
五三先生の発表
渡部先生の報告

 セッション3:琉球地域では、荒谷より琉球列島に関して概要説明があった後、嶋田 菜穂子(総合地球環境学研究所)より沖縄における湧水と住民の関係に関する報告、富永 篤(琉球大学)より琉球列島での両生類の生息環境と外来種に関する報告があり、北野 忠(東海大学)からは希少性の高い昆虫の域外保全と再導入に関する実践と研究の報告がありました。生活用水として使用されなくなった湧水と人の関係を再生しようというコミュニティの取り組みがある一方で、生物多様性の保全を目指す現場からは状況への切迫した訴えがありました。

セッション3における概要説明(荒谷先生)
嶋田先生の報告
富永先生の報告
北野先生の報告

 シンポジウム1日目は自然科学から人文科学まで、水共生学が掲げる学際研究を象徴する多様な報告がありました。園部 哲史 氏(政策研究大学院大学)からも幅広い分野からもたらされる知見に対する肯定的なコメントをいただきました。

11月2日(日)

 2日目は海外招聘者からの話題提供を中心とするセッションでした。最初に、タイ生物多様性センター代表のSomsak Panha氏(チュラロンコン大学)より、メコン川での生物多様性の解明と保全を行うプロジェクトに関する報告がありました。続いて、Ekgachai Jeratthitikul氏(マヒドゥン大学)がインドシナ半島で見られる淡水貝類の分類について報告しました。外見では測れない種の多様性と、貝そのものの大きさにも驚かされました。張東君氏(財団法人台北動物保全教育基金会)は絶滅が危惧されている石虎(タイワンヤマネコ)の保護に関するユニークな取り組みについて報告しました。台湾での、野犬が生態系に与える影響について考えさせられました。HOR Sanara氏(カンボジア王立農業大学)はBattambang地域の農村での世帯調査によって、住民グループ間の農地アクセスの格差と教育機会がどのように生活に影響するかを分析し、それが環境保護にも影響する点を報告しました。

Somsak Panha先生の報告
Ekgachai Jeratthitikul先生の報告
張東君先生の報告
HOR Sanara先生の報告

 ポスターセッションを挟んだ後、海外招聘者を交えての総合討論を実施しました。登壇者は沖氏、園部氏、Somsak氏、張氏、HOR氏と本領域の計画研究班代表4名、百村 帝彦(九州大学)で、モデレーターは鬼丸 武士(九州大学)が務めました。各計画研究班代表が、現時点での水共生学の達成度に対する自己評価を行い、その理由と課題、課題の解決方法に関する展望を述べた後、他の登壇者からのコメントを受けました。水共生学全体へ向けた課題として議論になったのは、社会実装の進め方でした。水共生社会をめざすうえで市民や行政とどう関わるのかについて、本領域研究の研究者間での議論を尽くすこと、各フィールドでのステークホルダーとの議論を重ねることが最も重要であることなどが指摘されました。招聘者も含め、複数のコメントや質問をいただき、水共生社会への道筋の困難さを共有しつつも、その方向を模索する水共生学への期待を感じる総合討論でした。

パネルディスカッションの様子(1)
パネルディスカッションの様子(1)
パネルディスカッションの様子(2)
パネルディスカッションの様子(2)
開会挨拶をおこなう荒谷領域代表

 本シンポジウムは専門分野をまたいで複数の国の研究者が一堂に会し、それぞれに意見を交わす場となりました。とくに両日にわたって行われたポスター発表では、参加者がポスターの前に立ち止まり、発表者の説明を熱心に聞く様子や質問をかわす様子が見られました。ポスター以外の場所でも立ち止まり、国籍に関係なく談笑する姿が会場の各所にあり、たいへん盛況でした。こういった交流の中から、水共生学の発展の萌芽が生まれると感じるシンポジウムでした。

会場ロビーの様子
ポスターセッションの様子(1)
ポスターセッションの様子(2)
ポスターセッションの様子(3)
ポスターセッションの様子(4)
  • URLをコピーしました!